大阪高等裁判所 昭和39年(ラ)222号 決定 1965年7月06日
抗告人 羽田良男(仮名)
被抗告人 中村シマ子(仮名)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。
当裁判所は、原審判を正当とするものであつて、その理由は、次のとおり訂正、付加する外、原審判の理由に記載するところと同一であるから、これを引用する。
原審判三枚目表一二行目に「同谷口茂作」とあるのを「同谷口茂平」と訂正する。
原審判八枚目裏一四行目から九枚目表一行目までを「生活を廃したものと認められる。」と訂正する。(「これらの事情は相手方が申立人を悪意に遺棄したものと認められる」との部分を削除したのである。)
内縁関係の生前解消につき、事情によつて、内縁の夫婦の一方から他方に対し、財産分与に類した財産的供与を請求することができ、これにつき、財産分与の規定を類推すべく、右請求につき、財産分与を手続上規定した家事審判法第九条第一項乙類の審判を類推し、準財産分与の審判を求めることができるものと解すべく、これと同趣旨の原審の判断は相当であり、これに反する抗告人の主張は採用しない。
本来の財産分与の請求には、(1)夫婦共同生活中の共通財産の清算、(2)離婚を惹起した有責配偶者の離婚そのものに起因する相手方配偶者の損害の賠償、(3)離婚後の生活についての扶養の三つの内容を含み、家庭裁判所が財産分与の審判をなすときは、前記三つの事情を審理して審判をするのが相当であると解せられ、右審判が確定した後は、慰藉料の請求は許されないものと解すべきものであつて、本件のような準財産分与の請求の審判には、以上のことが類推されるものと解すべきであるから、原審が慰藉料請求を包含して審判したことは相当である。
抗告人は、被抗告人は原審判がなされた後(と想像されるが)他に配偶者を得て事実上の結婚をしているとのことである旨主張するが、右事実を認める証拠はないのみならず、原審の昭和三八年五月二三日の審問期日に、被抗告人の父中村義男は、「私としては、できればシマ子を誰かと再婚さしてやりたいと思つているのですが、このような裁判が残つているので、再婚はそれらが片付いてからだと考えています。再婚した後に、前の夫のことでシマ子が裁判所へ行かなければならないというようなことでは、あとの夫も嫌がるだろうと思います。」と述べているのであつて、原審は、被抗告人が原審判後再婚(事実上の結婚を含めて)することがあるのを考慮の上、主文のとおり審判したものと解せられるので、被抗告人が仮に再婚したとしても、本件についての諸般の事情からみて、原審判の結論を左右する必要は認められず、抗告人の右主張は採用しない。
本件当事者双方の内縁中から内縁解消に至つた実情についての原審の認定は、一件記録からみて相当であり、抗告人に悪意の遺棄があるとは当審の判断しないところである。
原審判添付目録(3)、(4)の不動産取得に関する原審の認定は記録に徴し相当である。
抗告人と谷口花子の関係についての原審の認定は、記録により相当と認められ、右事実を取調べるにつき、原審が被抗告人側の証人のみ多く取調べ、抗告人側の証人の取調を尽していないものとは認められない。原審は、右事実関係取調のため適当な証人を調べているのである。本件につき、原審は抗告人申請にかかる証人七名をすべて取調べ、抗告人本人からも前後二回にわたりその陳述を聞き、その他の証拠調、事実の調査等もし、審理を尽していることが記録上認められるのであり、家庭裁判所が、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与させるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めるための事実の調査及び必要があると認める証拠調をすることは、本件について、原審で慎重になされているものと認められるのであつて、取調を尽していないものとは認められない。
原審での鑑定人中村忠作成の鑑定書二通によると、大阪市東成区東小橋北之町○丁目○○番地の一二宅地九〇坪四合は、換地坪が六一坪七合七勺に減少しているとして、右六一坪七合七勺につき、時価の鑑定がなされていること明白であるから、この点に関する抗告人の主張は到底採用できない。
すると、その他の点について判断するまでもなく、本件についての一切の事情を考慮して原審判は正当であり、本件抗告はその理由がないから、これを棄却することにし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 岩口守夫 判事 長瀬清澄 判事 岡部重信)
抗告理由 省略